ムードメーカーがいる日曜、サッカーへ行く理由が少し増えている
チームのムードメーカーがくれるのは、面白い話だけではありません。 ミスのあとに声を出せること、久しぶりでも会話に入れること。 笑いに関する研究と身近なやり取りを重ねながら、サッカーのある生活に、仲間と会いたくなる理由が増えていることを見つめます。

ひと言の声かけや何気ない笑いが、練習や試合へ向かうチームの距離を少しずつ近づけていく。
日曜の集合場所で、まだ誰もボールを出していない。
靴ひもを結ぶ人と、スマートフォンを見る人の間に、少し静かな時間がある。
そこへ、いつもの仲間がやってくる。
「今日は声、出していくで」
そう言ってバッグを置いた本人が、さっそく忘れ物に気づく。
誰かが突っ込み、隣で笑いが起こる。
さっきまで下を向いていた人も、顔を上げる。
練習のメニューも、今日の配置も、まだ決まっていない。
ただ、その人が来る前より、隣の仲間に話しかけやすくなっている。
ムードメーカーは、何を変えているのか

久しぶりの仲間へ先に声をかけ、輪の外にいる人を会話へ入れ、誰かの話を聞く。
その積み重ねが、チームの距離や話しかけやすさを少しずつ変えていく。
チームのムードメーカーと聞くと、よくしゃべり、よく笑う人を思い浮かべる。
冗談がうまい人、大きな声を出す人。
けれど、その人がいない日に寂しく感じるのは、面白い話が減るからだけだろうか。
久しぶりに来た仲間に、先に声をかける。
輪の外にいる人へ、今していた話を短く説明する。
誰かが話し始めたら、続きを聞く。
目立つ一言の前後にも、その人がしていることはある。
笑いについて、少し面白い研究がある。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者らが2016年に発表した研究では、24の社会の966人に、二人が一緒に笑う短い音声を聞いてもらった。
音声の主が友人同士なのか、初対面同士なのかを判断する実験だ。
参加者は、偶然に選ぶより高い割合で、その関係を見分けた。
話の中身を知らなくても、笑い声が人同士の関係を知る手がかりになっていた。
この研究は、笑わせればチームが強くなると証明したものではない。
ただ、何の話で笑っているかだけでなく、誰とどう笑っているかにも、その人たちの関係がにじむことを示している。
それなら、チームで交わす大したことのない冗談にも、言葉だけでは説明できないものが含まれているのかもしれない。
別の場所で同じ話をしても、たぶんそこまで受けない。
本人も、よくできた話だとは思っていない。
それなのに、この仲間の前では、続きを言う前から誰かが笑う。
顔を見れば、次に何を言うか分かってしまうこともある。
そんな相手が、家と職場の外にいる。
最後にチームで笑ったとき、面白かったのは話の内容だっただろうか。
それとも、いつもの人が、いつもの調子で話していたことだっただろうか。
ミスのあと、どんな声が聞こえるか

名前を呼ぶ、近くへ寄る、もう一度パスを出す。
仲間の何気ない反応が、下を向いた選手を次のプレーへつないでいく。
平日の打ち合わせで、説明が途中で止まる場面がある。
質問の意味を取り違えたと気づき、資料のページを戻す。
沈黙が少し長くなる。
そこで「先にこっちを確認しようか」と言ってくれる人がいると、話し直す場所ができる。
間違いが消えるわけではない。
でも、その間違いを抱えたまま、次の言葉を出せるようになる。
ピッチでも、パスを引っかけたあと、自分からもう一度ボールを呼ぶのは、少し気が重いことがある。
さっきのミスを取り返したい。
同じことはしたくない。
考えているうちに、受けられる場所へ出るのが遅れる。
そこで仲間が名前を呼び、「もう一回、こっち使って」と近くへ来る。
反省している自分のところへ、次のプレーが届く。
ムードメーカーの声も、そんな働きをしていることがある。
失敗を全部笑いに変える必要はないし、悔しがっている最中に冗談を言われても困る。
本気でやっているからこそ、今は笑えない場面もある。
その人が頼りになるのは、いつでも明るい言葉を足すからではなく、次に何を言えば仲間が参加し直せるかを、探しているからかもしれない。
「今の、次は足元で」
具体的な言葉で終えるときもあれば、プレーが切れたところで、自分の失敗を持ち出すときもある。
何も言わず、次のパスをその人へ渡すことだってある。
声の大きさだけを見ていると、こういう違いは目に入りにくい。
その人に助けられた場面を思い出すと、意外と何を言われたかまでは覚えていない。
ただ、いつまでも下を向かずに済んだことや、また自分から声を出していたことは残っている。
自分がミスをした日の記憶に、嫌な場面だけでなく、仲間の言い方まで一緒に入っている。
仕事でしてしまった失敗も、週末の試合で出した雑なパスも、なかったことにはならない。
それでも、その日の自分が失敗した人のままで終わらない場所がある。
帰るまでに別の話をして、誰かの話にも笑っていた。
そういう日曜を、どれくらい過ごしてきただろう。
その人が静かな日は、誰が話しかけるか

そんな日に誰かが先に声をかけることで、ムードメーカー一人に頼らない、みんなでつくるチームの空気が生まれていく。
「今日は声を出そう」と言っていた本人が、アップでいちばんしゃべって、試合前には少し静かになっている。
仲間から「もう声、使い切ったん?」と突っ込まれると、また何か言い返す。
試合中の指示は聞き返されるのに、休憩中のどうでもいい一言だけは全員に聞こえる。
本人がいちばん不満そうで、周りはまた笑っている。
そんなやり取りは、外から来た人には分かりにくいこともある。
いつもの仲間だけで話が進むと、初めて来た人は笑うタイミングを探す。
そこで「この人、毎回これ言うねん」と説明が入る。
今までの話を知らない人にも、笑いの輪に入るきっかけができる。
面白いことを言う人と、その面白さを誰かへ渡す人が、同じ人とは限らない。
ムードメーカーという呼び名は便利だけれど、ずっとその役目を任せていると、その人が黙る時間を見落としてしまう。
仕事が立て込んでいたり、今日はあまり話す気分ではなかったりする日もあるはずだ。
いつもどおりに盛り上げてくれなくても、来てくれたことは変わらない。
その人が静かな日に、何を話しかけているだろう。
笑わせてもらうのを待たず、こちらから最近のことを話す。
いつも聞いてもらっている分、今度は相手の話の続きを聞く。
そうしているうちに、誰が場を明るくしているのか、分からなくなることがある。
いつもの人が笑い、別の人が話し、自分も何か言っている。
サッカーがあるから、定期的に顔を合わせる。
顔を合わせるから、前の話の続きを聞ける。
今日の試合とは関係のない話まで、少しずつ増えていく。
得点や出場時間とは別に、あの人が来るなら会いたいと思う理由がある。
一人の声から始まった日曜が、帰るころには、みんなの声になっている。
自分もその中で笑っていたことを、普段はわざわざ数えない。
でも、予定表に書いた「サッカー」の時間には、ボールを蹴る以外のそんなやり取りも入っている。
これは、仲間に声をかけることが、また来たいと思える場所を一緒につくるということだ。
今日は、最近チームで笑った一言を思い出してみる。
チームのムードメーカーの、つい笑ってしまう口癖は何ですか。
その一言が浮かんだ仲間にも、この話を。
次に顔を合わせる予定は、Pullawayの試合日程から。
PULLAWAY